柏レイソルの2017年の新体制が発表されました。
下平監督が続投し、ヘッドコーチと選手9名の流出、6名が新規加入した結果26名で2017年がスタートします。
新体制の戦力がどうなったのか、プロジェクトマネージャーの観点で分析してみたいと思います。
サッカー観戦歴は5試合程度で細かいプレーの事はよくわかりません。プロジェクトマネージャが客観的に人材マネジメントとして分析した結果としてお読みください。かなり長文になりました。
正月から書き溜めていたので日付が1/2になっていますが投稿日は1/14です。
体制は十分か
チームの体制で重要なのは規模(人数)、質(スキルセット)、動機(モチベーション)、相性(コミュニケーション)と言われます。それぞれ見てみます。
規模(人数)
サッカーチームで適正な規模はよくわからないのでとりあえずプロジェクトと同じくリダンダンシー、コスト、モチベーションのバランスで要件を決めてみます。
- 怪我やカードの累積で出場できない選手がいてもチームとしてのパフォーマンスが低下しないこと
- 経営を圧迫しない程度に人的コストを抑えられること
- 選手のモチベーションが低下しない程度に試合に出場できるローテーションを組めること
必要人数は32名
リダンダンシーについては全ポジションの冗長化とします。
基礎数値はポジションの11名と交代枠の3名を合わせて14。安全率はリーグ戦(2)、シーズン前半のルヴァンカップ、後半の天皇杯(共に0.25)があることを考慮して2.25倍。14×2.25=31.5名...繰り上げて32名が必要人数と考えられます。おそらくこれは選手に過度な負担をかけず且つ試合に出られる可能性を選手に示唆できる(モチベーションを維持できる)人数と一致します。
経営的に雇用できる人数は32名
使える費用については既に各チームで捻出している予算から推測できます。今回は全チームの総年俸を平均人員コストで商算することで求めます。
その結果、予算は6億2292万円、平均人員コストは1200万円であることがわかりました。
予算は2016年の年俸ランキングを元に各チームの人員コストを算出し、四分法で上下25%を切り捨て、残った統計からmean(総和平均)を算出します。平均人員コストは同様に四分法で両端を除きますがデジタルな値なのでmedian(中央値)を算出します。すると予算は6億2292万円。平均人員コストは1200万円。
ただしどのチームも5千万円以上の選手を4人、1億円プレーヤーを1人は抱えているのでこれを補正して (62,292-10,000-5,000×4)/1200+5≒31.91名が雇用できる限界と考えられます。やはりこれも32名。
チーム毎にばらつきはあるものの、経営者としては必要な人数を揃えられる予算を確保していると言えます。
実際には平均29名
実際にJ1の18チームで登録されている選手を見てみると534名です。1チーム約29.7名。同様に四分法で(以下略)だとmedianで29名。
32名必要で経営者は32名分の予算を確保して実際は29名というのが実態の様です。このブレは選手の価格の高騰などがあるのだと思います。
ちなみに登録選手が30名以上なのは30名 仙台 広島、 31名 鹿島 大宮、 32名 磐田、 34名 FC東京、 37名 G大阪の7チームです。
レイソルの26名は少ないのか
「上位を狙うのは難しい程度に少ない」と言うほかありません。
登録選手数と順位を比べてみると、30名以上いる7チームのうち過半数の4チームは上位6チームに入っていますが、29名以下のチームは11チーム中2チームしか上位6チームに入れていません。その2チームのうち浦和(27名 2位)は10億円のコストをかけています。
図中、緑の枠は上位6位チーム。紫の線は平均人数です。レイソルはピッタリ平均の29名で神戸と7位8位についています。選手のレベルの高さが伺えます。
ただ、川崎(28名 3位)の様に少人数かつ平均よりやや高い程度のコスト(6.7億)で上位に食い込んでいるチームもあり、人数が少ないからといって絶望的というわけではありません。厳しいことには変わりありませんが。
質(スキルセット)
スキルセットはポジションとポジションでのスキルに分けて考えます。抜けたポジションを新規加入で埋められているか。昨年の課題を埋める補強ができているかがポイントになると思います。
ポジションの過不足
流出
- 布部陽功 ヘッドコーチ → J2 京都サンガF.C(監督)
- 稲田康志(GK) → J1 アルビレックス新潟(完全移籍)
- 茨田陽生(右SB) → J1 大宮アルディージャ(完全移籍)
- 湯澤聖人(右SB) → J2 京都サンガF.C.(期限付き)
- 増嶋竜也(右CB) → J1 ベガルタ仙台(期限付き)
- 山中亮輔(左SB) → J1 横浜Fマリノス(完全移籍)
- エドゥアルド →J1川崎フロンターレ(期限付き→完全移籍)
- 木村祐 → J2 Vファーレン長崎(期限付き→完全移籍)
- 太田徹郎(MF) → J1 サガン鳥栖
- 秋野英樹(MF:ボランチ) → J2 湘南ベルマーレ(期限付き)
新規加入
- 小池龍太(右SB) ← J2 レノファ山口
- 橋口拓哉(右CB?) ← 流通経済大学
- ユン ソギュン(左SB) ←ブレンビーIF(デンマーク) 韓国代表
- 古賀太陽(左SB) ← 柏U-18
- ハモンロペス(MF) ← J1 ベガルタ仙台
- 大島康樹(FW) ← J3 カターレ富山
昨シーズンいなかったエドゥアルドと木村を考慮から外すと、GK(-1)、右SB(-1)、右CB(±0)、左SB(+1)、MF(-1)、FW(+1)です。GK(-1)とMF(-1)は出場機会が少なかった稲田、太田の流出なので直ちに問題になることは無いと思います。太田は右SBもできる選手だったので人数が減った今だからこそいてほしい選手だったのですが。
その右SBはスタメンの茨田と伸び盛りの湯澤が抜けるという大惨事。今井の復帰と小池の早急な立ち上げが必要です。
ポジションでのスキル
個人のスキルについては評価が難しいです。とくにMFとFWは仕事の幅が広く、フォーメーションによって活きたり消えたりします。そもそもサッカー経験が「大人のためのサッカー教室」だけという私では評価する事自体おこがましい。それを覚悟で「既存の選手とレギュラー争いができるか」という観点であえて評価してみます。
小池、ハモンロペスは実績もあり問題ないと思います。
ユンはQPR(英)に移籍するも半年でDRFC(英)へ期限付き移籍、その後CAFC(英)への期限付き移籍、完全移籍したブレンビー(デンマーク)では出場機会無しと韓国代表とはいえ不安が残ります。文化的に近い日本で調子を取り戻すことを期待しています。
古賀は2016年5月の2種登録以降、輪湖からスタメンを獲得できていないことから客観的に見てまだ力不足なのでしょう。2種登録でいきなりスタメンの方がすごいと思いますが。U代表の経験もある若干19歳。下平監督が認めた選手ですから大化けが期待できます。しかし辻本清美に見えてしまうのがどうしても気になる。
大島は富山での育成移籍中に良い経験をしてきた様です。昨シーズンのレイソルはFWの決定力やリードされてからのメンタルの弱さが課題だったのでこの貴重な経験を活かして欲しいと思います。
2016年J3リーグ22節のY.S.C.C.横浜戦。61分まで3-0でセーフティーリードされている状況から4得点を挙げて大逆転しました。そのゲームで2得点目を挙げたのが大島です。この時の大島は冷静でした。DFに詰め寄られながらも低い弾道でキーパーをかわすシュート(左足)。このシュートは回り込んできたDFにクリアされますが、そのこぼれ玉を再び低い弾道でシュート(右足)してゴール。2回とも落ち着いて相手がいない隙を正確に突いています。ちなみにこのゴールは富山のJリーグ通算300得点目というおまけ付き。
橋口は全く未知数です。本当に情報がありません。しかしTJも最初は無名の選手でしたが下平監督が発掘育成して代表にまで成長しました。湯澤パイセンは期限付き移籍して目の上のタンコブはいません(失礼)。伸び伸びと中谷とレギュラー争いをして欲しいと思います。
まとめると6人中2人は安心。1人は不安。3人は将来に期待といったところでしょうか。
動機(モチベーション)
プロジェクトマネージメントの世界ではエンゲージメントと呼ばれるようになってきた要素で、実力を出しきったり実力以上の力を発揮させる重要な要素です。サッカー選手の最大のモチベーションはやはりスタメン獲得や試合への出場だと思われます。努力が酬われる(期待理論)、自分にはまだ可能性があると思える(マクレランドの達成理論)采配を監督ができるか否かと、期待どおり成長させられるコーチの腕がポイントになります。
期待値は上がっているはず
肯定的に見ると人数が少なくなったことで出場への期待は高くなっているはずです。
チームを離れていても選手の動向を気遣う下平監督ですから、去年出場機会が少なかった選手もずっと気にかけていたことは想像に難しくありません。そんな選手にとって今年はチャンスです。
ゆとってる気配が心配
人数が減ることでスタメン争いで切磋琢磨しようという空気が緩むのでは無いかという懸念もあります。
強いチームには「リーグ優勝?スタメン争いが厳しくてそれどころじゃないよ by 増嶋 since 2011」という状況があるはずなのですが、どこか友達チームのほんわかした空気があるのが気になります。最近の子はみんなこうなのでしょうか?
こういうときは抜き打ち監査と評価のリセットが効きます。練習でゆとってる選手を見つけたらまず注意。2人目を見つけたら一旦練習を止めて全員に注意。3人目を見つけたら「スタメンを全員見直す」旨を事務的に通達。説明は一切無し。それくらいやってもいいと思います。
選手がやる気になったら次はコーチの出番
新しく就任した岩瀬ヘッドコーチは表面的な情報しか無いので何とも言い難いです。
浦和レッズと大宮アルディージャで選手としての経験を積んだ元フットサル日本代表選手という経歴。選手としての経験は十分と考えてよいのではないでしょうか。
浦和レッズではU14の監督をしていた時期があり、その翌年からレイソルのU15のコーチをしています。1997~2000年生まれの世代の指導経験が豊富ということですね。もう少ししたら中村俊太や宮本駿晃、中山創あたりがトップに上がってくるのが楽しみではあります。
でもその前に現トップチームのケアはできるのでしょうか?年代も国籍もバラバラですけれども。他のコーチと協力してケアをお願いしたいです。
相性(コミュニケーション)
プロジェクトマネジメントの世界では人数は増えれば良いというものではないとされています。人数と成績に相関があるのは前述のとおりですが、「遅れているプロジェクトに人を増員するとさらにプロジェクトは遅れる」「強いチームで人が増えるとより強いチームができる」という「チームでは弱さも強さも補強される現象」がよく知られています。
この現象を40年前に説いてた「人月の神話」は名著だと思います。
サッカー未経験の私は選手の相性がどのような形で現れるのかわかりません。
プロジェクトの一般論で言うと、良い人材であればあるほど自分のやり方にこだわりがあり、衝突し、認め合ってからパフォーマンスが上がる傾向があります。衝突が解消するまでの期間はパフォーマンスが大きく落ち、損失になります。そして衝突(コンフリクト)のコントロールに失敗すると崩壊します。
柏レイソルはたぶん大丈夫
レイソルはユース出身者が多く、古賀、大島とはそもそもコンフリクトが発生しないはずです。通訳も充実しているしブラジル三羽烏がいるのでハモンロペスも多分大丈夫。通訳ではないけれどテクニカルの李コーチがいるのでユンが孤立することも無さそう。実は日本語を話せたりして。
※2017/1/14の新体制発表会では日本語は話せないとのことでした。
小池はコミュ力ありそうですし既にIJや安西とご飯を食べにいく仲らしいので問題なさそう。橋口はほんとにわからないのでそこだけ不安。まあ若いので何とかなると思います。(無責任)
プレーについてはレイソルの申し子大谷や下平サッカーを伝えるのが使命と公言している中川、公言していないけどたぶんそう思ってる小林、中谷、中村がいるので新規参入メンバーに浸透するのに時間はかからないと思います。
新規加入が少ないおかげでむしろいいスタートを切れそうな気がしてきました。
場外乱闘:補強か育成か
某黄色い掲示板で時々勃発する「補強か育成か」論争。
中途半端に「両方必要」という結論にならずに、0か1かで徹底的に意見をぶつけていて大変興味深いです。
補強を主張している人は「いい選手を入れればいいプレーができて勝てる」という考えがベースにある様です。一方育成を主張している人は「完璧な選手はいないので不満が出る度に入れ替えるのはキリがない、既存の選手を育てれば良いところは残しつつ不満を解消できる」という考え方の様です。
これに尾ひれがついて、育成だけで勝てるのか→補強なら勝てるのか→補強の方が可能性が高い→補強はできなければ成果ゼロ。育成なら少なくともプラス→育成しても移籍されたら終わり→補強したくても来てくれなければ始まりさえしない etc...
延々繰返して罵り合いが始まるころに賢い人が「どちらも必要」で綺麗にまとめてくれる。そして数日してまた勃発(笑)
それぞれ言っていることは正しいので両方にいいねを押してしまうのですが、今日はせっかくなので私なりの結論を。彼らがここを見ていないことを祈ります。
移籍は意味があるのか
そもそもここから考えてみます。
2016年の移籍シーズンは田口選手が人気でしたが、田口がいたグランパスはJ2に降格しました。田口を獲得すればいいサッカーができて勝てて優勝できるという考えは甘いと言わざるを得ません。これは全ての選手に言えることです。
黄色い掲示板の言葉をそのまま使うと、「人をとっかえひっかえ入れ替えればパラメタが良くなって勝てると思ってる奴はプレステでもやってろ」という主張は正しいと思います。
移籍は意味が無いのか
あくまで統計的な評価なのですが、移籍で選手を獲得することとチームが強くなることには正の相関がありそうです。
選手の年俸の総額と順位をグラフにしたのが以下の図です。
登録選手数は29名前後で大きな差が無いことと移籍によって年俸が大幅に増えることから、「年俸の総コストが高い∝選手の年俸が高い∝移籍で獲得する選手が多い」という関係が成立するという前提です。繰り返しますがあくまで統計的な話です。同じパフォーマンスでも移籍していない選手の方が年俸が低いという事は一般的にあり得ます。
クラブ平均、コスト/順位、もっともコストをかけているチームとかけていないチームの3つの平均軸で評価しています。右上に行くほどパフォーマンスが低く、左下に行くほどパフォーマンスが高いことを示しています。点線はそれぞれの平均軸を柏レイソルに当てはめたものです。
概ね、年俸が高い方が成績が良くなっていることがわかると思います。ただし、G大阪は登録選手が最多(37名)、逆に浦和の登録選手は最少(27名)であることを考慮する必要があります。
年俸が高いから成績が良いのか、成績が良いから年俸が高いのか、成績に関係なくスポンサーがお金持ちだから年俸が高いのか検証されていません。しつこい様ですがあくまで仮説をおいた上で統計的に評価しただけです。
もう少し量的に解釈すると、上位6位に入るには最低でも5.5億円以上のコストをかける必要がある半面、8億円以上かけても優勝できるとは限らないとも見えます。
育成に意味はあるのか
上記の図を見ると柏のバランス感覚は見事だと言えます。どの指標で見ても上位4位に入るコストパフォーマンスを出しています。
具体的な要因は多々あると思いますが一番はやはり育成がうまく行っているからではないでしょうか。高い移籍金や年俸を払わなくてもしっかり底上げできるのは育成の成果と言えるはずです。
ユースだけではなくトップチームの選手も伸びてほしいのですが茨田をはじめ、伸び悩む選手がいることも事実です。しかし平均年齢22歳という若さには大きな伸びしろを感じます。武富と中川が大化けした様に秋野と湯澤も大きく育って帰ってきてくれることを願ってやみません。
これだけ若いチームが堂々と戦ってこれたのは経営者やスタッフの優秀さの証とも言えます。ただし、サポーターが求めているのはコストパフォーマンスではなくCWC優勝であることもお忘れ無く。
結局どちらの側に付くのか
両方...
ではここまで書いた意味が無いので、「育成重視」の側に付きます。
個人的な感情でもあり、某黄色い掲示板でも出た意見なのですが、「中山が居ないときにKじゃ不安だから補強を!」というのはあまりに選手対して失礼なんじゃないかと。むしろそんな言われ方をすると「K頑張れ!一晩泣いたら変われるのが漢だぞ!案外ポカやらかしてる中山には決して負けて無いぞ!」と応援したくなるのです。
プロジェクトマネジメントの観点から見ても、ダメなメンバーがいるならそれはメンバーの力を引き出せないプロジェクトマネージャーの責任なのです。メンバーをとっかえひっかえするコストとそのために失う時間は全て他のメンバーの負担になります。
何より、選手は機械でも奴隷でもありません。調子が良かったり悪かったり、泣いたり笑ったりする同じ人間です。人間と人間の距離感を持ったサポーターでいたいと私は思います。
まとめ
2016年と比べて人数が減り、厳しい体制になりました。リーグ優勝は難しそうですが目標はACLそしてCWCなのでそこに向かって勝ち点を積み上げていけば良いと思います。
レギュラーの移籍で一時騒然としましたが直近で大きな問題になるとは考えにくく、選手にとって飛躍のチャンスが増えたと考えることもできます。右SBの立ち上げが急務ですが若さと組織力で何とかなると思います。
今年は去年よりドキドキハラハラを楽しむ。そんな年になりそうな予感がします。